東京地方裁判所 昭和29年(モ)10334号 決定
、相手方は申立の趣旨記載の調停調書正本に対し昭和二十九年三月二十四日同記載の執行文の付与を受け之に基き東京地方裁判所執行吏に委任して、昭和二十九年三月二十七日を第一回とし爾後同年七月二日迄五回に亘り、申立人所有の東京都大田区新井宿二丁目一六三五番地木造瓦葺二階建居宅一棟建坪十六坪五合二階十坪七合五勺の全部(但根来勇占有の二階四畳半を除く)につき強制執行を断行した。
第二、右強制執行の基本たる調停調書の第一項は
「被告及利害関係人両名は連帯して原告に対し金六十五万円を左記の通り原告代理人山本政喜事務所に持参支払うこと
(一) 金三十二万五千円を昭和二十九年一月二十日限り
(二) 金三十二万五千円を同年二月二十八日限り
但し右二回の支払期日は被告及利害関係人より原告に対し支払延期を要請したる場合は原告において右支払期日を一ケ月間猶予することを承諾すること」
とあり、
其の第三項には、
「被告及利害関係人が前記第一項の支払義務を完全に履行せざる時は原告は被告に対し既に受領したる金員は之を返還して原告は被告に対し左記物件目録表示不動産につき昭和二十四年十月一日附譲渡契約に基く所有権移転登記手続を請求し且右不動産の引渡を求むることを得るものとす」
とあつて、第一項の債務不履行及履行期延長の有無内入金の返還の有無が第三項の所有権移転登記手続の履行及家屋明渡請求の前提条件に繋つている。かかる場合執行文を付与するには民事訴訟法第五一八条二項の手続を履践しなければならないのみでなく同法第五二〇条により裁判長の命令あることを要し且つ右命令は執行文に之を記載しなければならない。
第三、然るに本件執行文付与に際しては前記各手続を履践した事実なく且執行文には裁判長の命令による執行文付与の記載がない。延いては民事訴訟法第五二八条二項、同条三項所定の執行開始前の手続も履行なく強制執行された。
従つて右執行文の付与は違法であるから民事訴訟法第五二二条により異議申立に及んだ。
というにある。
申立人(被告)と相手方(原告)間の東京地方裁判所昭和二十八年(ノ)第四九八号土地所有権移転登記調停事件の調停調書に対し相手方において昭和二十九年三月二十二日執行文付与の申立を為したことは昭和二八年(ワ)第一三七号(昭和二十八年(ノ)第四九八号)事件の右執行文付与申請書に徴し明かであつて、右申立に基づき当庁裁判所書記官補が昭和二十九年三月二十四日執行文を付与したこと、其の際民事訴訟法第五一八条二項、同法第五二〇条の手続を履践しなかつたこと、右執行文を付与された調停調書正本に基き相手方が申立人主張の物件につき申立人主張の如く強制執行を断行したこと、右調停調書の第一項及第三項に夫々申立人主張の如き記載があることは本件記録中の執行文謄本(写)、不動産明渡強制執行調書(写)調書正本(写)に徴し明かである。
よつて按ずるに、民事訴訟法第五一八条二項の条件とは債権者において挙証責任を負うものに限り、債務者において証明すべき条件は之に該当しないものと解すべきである。本件調停調書第三項に関し債務者(申立人)は同調書第一項の支払義務を完全に履行したことを証明することにより執行を免るべきものであつて其の挙証責任は債務者にあり債権者(相手方)になく、従つて右債務不履行の事実は民事訴訟法第五一八条二項の条件に該当しない。同調書但書の履行期延長についても同様に解すべきである。次に同調書第一項の内入金の返還は第三項の所有権移転登記手続の履行及び家屋明渡請求と同時に為すべき反対給付と認むべきであるから、債権者の為すべき証明書に依る履行又はその提供の証明は執行文付与の要件ではなく強制執行開始の要件である。従つて之亦民事訴訟法第五一八条二項の条件には該当しない。
然れば民事訴訟法第五一八条二項、同法五二〇条所定の手続を履践せずして本件執行文を付与したのは適法で本件異議申立は失当であるから主文の通り決定する。
(裁判官 福島逸雄)